【更新】交渉能力がモノをいう経済・貿易ゲーム、岩手県北上市の小中学校で実演中
2006年09月13日 06:30
[毎日新聞]によると岩手県の北上市では「トレーディングゲーム」が義務教育機関の注目を集めている。「トレーディングゲーム」と言ってもアニメや漫画のキャラクタが描かれたカードをやり取りする「トレカ」のやり取りゲームではなく、経済や貿易の基礎概念を学ぶ擬似国家運営ゲーム、つまりは「ロールプレイング」のようなものだ。
スポンサードリンク
これは北上市が2004年に経済産業省の起業家教育促進事業モデル自治体に選ばれたのがきっかけ。モデル自治体の指定はその都市限りだったが、この「トレーディングゲーム」は起業家を養成する特別なものではなく、創造力や判断力、説得力を養う普遍的なものと認識。年間100万円ほどの予算をつけ、同市内の多くの小中学校の授業で実施が続けられている。
この「トレーディングゲーム」とはアメリカの学校(小中学校だけでなく大学の課程でも)などでもよく行われている、国家の経済・外交・生産を非常に単純化した交渉ゲーム。生徒たちはゲームスタート前に国に模された複数のグループに分けられ、袋に入った「資源」が配られる。ゲームが始まると袋の中身を見て使用できるが、その中に入っているのは紙や定規、分度器、鉛筆、カッター、はさみなど。これらは「定規」「カッター」などの道具が「技術」、「紙」が「資源」にたとえられている。
先生側は製品取引所・銀行などを担当。丸や四角、三角などのいくつかの図形を指定し、どの図形はいくらで買い取るかを生徒たちの「国」に提示する。それらの買い取り相場は需要関係などを元に常に変動し、持ち込まれた図形の出来具合によっても値に差がつけられる。
生徒たちのグループは手元の道具を使って紙を切り、取引所に切り込んだ図形こと「製品」を持ち込んで換金してもらい、収益を上げていく。手に入れたお金は手元に残しても、銀行に預けて利子に期待することもできる。そして制限時間内にもっとも豊かになった国が勝ち。
それぞれのグループ(国)に配られた袋に入っているのは、その国によって千差万別の材料や道具。紙がいっぱいあるが定規しかない、つまり「資源は豊富だが技術に欠けている」グループや、紙がほとんどないのに定規や鉛筆、コンパス、はさみ、カッターなど道具が豊富な「資源に乏しいが技術に長けている」グループ、そして紙も道具も一通りそろっている「資源も技術も一通りそろっている」グループなど、それぞれ色々な国を模しており、グループごとに明らかに差が生じて公平でないのがポイント。
今ゲームには交渉上の制限はない。はさみの無い国が手元の紙を持参してはさみとカッターを持っている国に「紙をあげるからはさみを貸して」と交換を持ちかけたり、「このお金でカッターを売ってください」と売買の交渉をしたり、果ては「うちの紙を貸すからあなたのカッターと鉛筆と定規できれいな図形を作ってほしい。売り上げは五分五分で分けよう」という加工貿易依頼をすることも、当事者らの機転が利けば可能だ。
さらには特定の図形の買い取り価格が急騰したり、銀行が破綻して預けているお金が半分しか手元に戻らなくなったり、特定のグループにのみ美味しい情報(赤色の紙を使った商品は買い取り価格が倍になる、など)が伝えられたりなど、本物の国際経済・国際政治さながらの情勢変化がイベントで用意されている。
管理側(銀行や取引所、相場のコントロールと表示など)にそれなりの人数と準備が必要なため、ボランティアや専門の要員が必要など、どこの学校ででもすぐに出来るという内容のものではない。だがハードルは低いので、多くの学校でこの「トレーディングゲーム」が実施されつつある。そしてたいていにおいて生徒側の反応は好調だ。
ルールそのものは非常に簡単だが、「駆け引き」と「発想」や「機転」が全面に押し出されているため、それぞれの生徒らの個性がゲームプレイに反映される。また、実体験で「経済とは何か」「外交とは何か」「貿易とは何か」という概念を知ることが出来、非常に有意義なゲームでもある。想像力に欠けるとゲームには勝てない。「実世界、特に経済社会でのさまざまなノウハウを知り体験できる」という意味でも注目すべきゲームといえる。
テーブルトークロールプレイングゲームやボードゲームでも「駆け引き」や「発想」「機転」「交渉力」などを学ぶことは可能。それこそトランプのババ抜きや将棋でもしかり。ただ、このような「多人数が同一のルールで参加し、柔軟な交渉術や発想力を必要とする」ゲームをプレイする場が少なくなったため、これらの力を「実演して学ぶ」機会が得られなくなってきているのも事実。
そういう現状を踏まえると、「トレーディングゲーム」は北上市に限ったことではなく、他の地域の教育機関ででも積極的に取り入れる教材ではないだろうか。「トレーディングゲーム」のスタッフとしてボランティアで何度か実際に参加した当方(不破)も、その必要性をひしひしと感じている。
なおこの「トレーディングゲーム」については【ウィルシードのサイト】が詳しい。興味のある人はこちらのサイトも参照してほしい。
スポンサードリンク
ツイート