上場企業3900社がすべて透明性が高いとは限らない、むしろ大半が「暗黒大陸」
2006年09月17日 07:00
【NIKKEI NeT】において上場企業の経営情報に関する透明性について、興味深いレポートが掲載されていた。本来「上場しているのだから経営情報の透明性は当然」という常識が、実はまったくの思い違いであり、大半が「透明性」とは程遠い場所に置かれざるを得ない企業だというのだ。かつて西洋文明にとって調査が進んでいなかったアフリカ大陸のことを「暗黒大陸」と呼んだ時代があったが、その言葉を模し、「上場企業3900社の大半は”暗黒大陸”である」と語られている。
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日本には上場企業は3900社ほどあるが、証券アナリストがまじめに継続的に観察しているのは500社ほどしかない。東証一部上場企業1600社中ですら300社ほどしかないという。理屈はさほど難しくはない。コスト面での問題と分析データのボリュームアップで、モニターできる銘柄に限界があるというものだ。
20年ほど前、4大証券(野村・山一・大和・日興)の証券アナリストは1人につき20社から30社を担当し、調査部の全員で東証一部銘柄のすべてを網羅していた。投資家は最低でも4社それぞれの分析データや意見を参考にすることができた。これは分析すべきデータが少なく、一社あたりのアナリストの負担も軽く済んだからに他ならない。
しかし現在では四半期決算で単純計算でも20年前と比べ4倍のデータが各社から提示される。連結決算中心になったため、クロスオーバー的な分析が求められる。さらに明確な投資判断も必要。アナリストに求められる1社あたりの負担はいったい何倍になっているんだろうね、というのが現状とのこと。結果として1人の証券アナリストが担当できる企業数は10社程度が限界だという。アナリストとて人間であるし、神が与えた1日あたりの時間は24時間という事実も変えることができないからだ。
証券会社が雇っているアナリストの数は30人から50人とのこと。掛け算をすると、1社がカバーできる銘柄数は300から500社。そしてアナリストが吐き出す業績予想などのレポートは、「販売して売り上げをあげる」「証券会社での売買を後押しする」ことが前提。引きが強い銘柄や、単価が高く出来高が大きい銘柄への分析レポートの方が「価値がある」と判断され、同じ10社ならそのような銘柄のレポートを、と求められる。当然、証券会社ごとのレポートも、似たような銘柄に注力されるようになる。
結局のところ、上場企業の銘柄は「多くの証券アナリストが注目しているチェック銘柄」と「あまり注目されていない、監視のうすい銘柄」に二分される。そして大手ファンドなどもアナリストによるレポートを参照にする(それだけ分析資料が多く、また「監視されている」ことによりその銘柄の透明性が高いと判断できるから)ため、ファンドへの組み入れ割合が多くなる。結果としてますます二極化が進むことになる。
元記事では「注目されていない銘柄」を「暗黒大陸」企業、と呼んでいる。注目対象外の銘柄にも、「IRに熱心で、経営者も素晴らしく、地道に業績を上げているのに注目されていない企業」が多く、それらは当然のことながら安値で放置されている。もしそのような銘柄を見つけることが出来れば言葉どおり「お宝銘柄との遭遇」ということになるだろう。
もちろん前世紀やそれ以前において、本物の「暗黒大陸」ことアフリカに足を踏み入れた探検家のように、暗黒大陸の闇の部分にとらわれてしまう……本当に暗黒だった、つまりIR体制が不十分だったり、株式市場からのチェックが甘いことをこれ幸いにと、粉飾まがいの決算や会社の私物化がまかり通っている企業を「踏んでしまう」可能性もある。
分析だけで飯を食べているアナリストのように、というのは無理な話だが、大手ファンドにしょっちゅう組み込まれる大型銘柄以外への投資を検討する場合、投資家一人一人にもそれなりの情報収集・分析能力が求められる、ということなのだろう。
ちなみに投資ファンドのファンドマネージャーを主人公とした、現在連載中の『ザ・ファンドマネージャー』では、実際にファンドマネージャーがどのように銘柄を選択し、情報を収集し、分析をしていくか、その一端を垣間見ることができる。情報の収集はもちろん現地調査やインタビュー、関連業種へのリサーチなど、やるべきことは山ほどある。「これだけのことをしなければならないのなら、ひとり10社が限界」ということも理解できよう。
(最終更新:2013/09/16)
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