三菱総研、「消費税10%へ → GDP1.9%マイナス」との推測結果
2006年09月16日 18:30
【三菱総合研究所】は9月14日、自民党の総裁選挙戦でも議題の一つになっている消費税率の引き上げについて、この引き上げが日本経済に及ぼす影響について推定した結果<「消費税の経済的影響~消費税率の引き上げが日本経済と家計消費に及ぼすインパクト~」を発表した。それによると消費税率を現在の5%から5%分引き上げて10%にした場合、GDP(国内総生産。日本の国内で1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の合計)は1.9%、民間消費は2.7%減少するという。
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三菱総合研究所では各種パターンを想定してGDPと民間消費の下落率を計算している。消費税率の引き上げ割合が5%で10%になった場合、そのままだとGDP・民間消費の下落は-1.9%・-2.7%だが、食料品・出版・印刷・薬品・上水道・旅客交通の生活必需品を軽減税率対象とすると、その下落率は-1.6%・-2.3%といくぶんおとなしくなる。また、税率が上がった場合、生活必需品の購入量減少はわずかで済むが、耐久消費財の購入量は大きく減少する。当然、軽減税率対象を増やせば徴税方法も複雑になるし税収減も推定されるので、一概に良いとばかりはいえない。
また、消費税率が引き上げられることで、
(1)民間から政府に移る(消費税)資金額が税収として増える
(2)税収増として政府に入った資金の多くは財政赤字の解消に使用され生産や消費には影響を及ぼさない
(3)よって生産・消費に充てられる資金量が減るので、経済活動の縮小をもたらす
と分析している。江戸時代の稲作農家でたとえるなら「収穫したお米を年貢、消費・販売用・来年の種籾用として等分していたが、年貢として自分の田んぼのサイクルからはずされる量が倍に増えたので、その分消費・販売用や種籾用の分を減らさねばならず、当然来年以降の稲作は苦労することになり、植えられる稲の量も減らさざるを得なくなる」ということ。
一応レポート内資産では軽減税率対象がない場合消費税率を1%引き上げることで2.6兆円(民間部門に限定すると2.2兆円)税収が増加するという試算が導き出されている。2015年には財政を再建して黒字化するという目的を達するには、(国税の増税だけでまかなう場合)5%以上の消費税率アップが必要とされている。
とはいうものの。
上記枠内に順序だてて説明されているとおり、毎年10兆円以上もの資金が民間から吸い上げられ生産・消費に何の貢献もせずに費やされてしまうことで、「税金の前提となる経済活動」そのものが萎縮する可能性がある。また、単年度のGDP・民間消費の下落-1.9%・-2.7%が毎年毎年累積されることによって経済活動そのものが縮小し、民間の利益が縮小すれば、同じ税率でも得られる税収は減ってしまうのは誰の目にも明らかである(GDP・民間消費の下落とそれがもたらす生産額の減少、その減少分をもとにした税収の再計算もなされているとよかったのだが、今回のレポートには見当たらなかった)。
「税率上げれば手に入るお金が増えるし楽だから税率上げちゃえ。消費税なら一律とれるし、便利だな」とばかりに消費税率をあげたところで、思惑通りにはいきそうにないことは明らか。『信長の野望』や『三國志』『シヴィライゼーション』系などの国家運営経営シミュレーションで、「手持ち資金を増やしたいから税率倍、さらに倍」など上げてしまうと国の生産力が落ち込んで、結局税収がちっとも増えなかったという経験を持つ人も多いだろうが、まさにそのような状況になりかねない。
税収は基本的に「(税収)=(利益)×(税率)」で計算される(消費税の場合は「利益」部分が売り上げや物販価格に差し変わる)。「税率」の部分を増やすのが今回の消費税率引き上げなどの増税であるが、税率を上げると利益にまでマイナスの影響を及ぼし、税収の増加にはつながりにくい場合が多々ある。
「利益」の部分を税率減少分以上にあげるように工夫しながら「税率」軽減を行い、「税収」を増やす仕組みを考えるのも、ひとつの手だと思われる(タックスフリー地域や免税エリアなどが良い例だ)。だが、世の中そう単純には行かないのが常なのだろう。
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