相次ぐインサイダー取引事件発覚で思うこと

2006年07月29日 18:00

ここ数か月の間に限っても、大規模なインサイダー取引に関する報道が相次いでいることに気がついている読者の方々も多いと思う。一次的な東京株式市場の軟調さまで引き起こした【村上ファンドの件】をはじめ、よりによって情報統括が必要不可欠な【日経新聞社内における件】、そして本日29日に報じられた【PCデポにおける件(現在捜査継続中との報)】など。株式取引という仕組みができ、インサイダー取引が「してはいけないこと」として法律が定められられてからこのような話はついえたことは無いものの、あまりにも続きすぎてはいないだろうか。

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業種に限らずインサイダーの疑いが強い値動きをすることはよくある話。否定はされたが最近では【USEN(4842)、インサイダー取引の存在を否定】にあるように、株価が下がる「材料」が公告として出る数時間前に大きな原因不明の売り込みが入って株価が急落したり、逆に買い「材料」の直前になぜか買い注文が断続的に入り株価が急騰することは少なからず見受けられる。

公告される前の情報が「一人」の手によるものではなく複数の人の手によって(リリースなどの形として)制作されて配信準備される以上、インサイダー取引がされる可能性は常に潜んでいると言ってもいい。そのような状況を鑑みて、「株式取引で儲ける最良のテクニックはインサイダー取引だ」と悲観的な語りをする人もいるほど。

しかし、それは市場の公正さを欠く行動に他ならない。やって良いことでは決して無い。

グループサイトのGarbagebooks.com(すでにサイトは無くなっています)で先日紹介した本のなかの一つ、「ザ・ファンドマネージャー」ではタイムリーなことに、丁度連載中のテーマが「インサイダー取引」だった。簡単に流れを解説すると、会社訪問をしていた際に「たまたま」見てしまった売り材料を用いて新米ファンドマネージャー(FM)が売り込みを図ろうとしたところ、「それはインサイダー取引だ」と先輩FMに止められたという話。その上で「調査を重ね情報の中身とその後の動きを吟味推測し、公告された段階でろうばいしないように」という形でストーリーは進んでいく。

実は「たまたま」などではなく意図的にインサイダー情報を見せ、相手にインサイダー取引で大儲けをさせてその報酬料をもらおうとする社員の悪巧みであることが判明し、先輩FMがその社員をこらしめる……というオチで話はまとめられる。

「会社内部から情報をリークしてインサイダー取引をさせ、そのおこぼれにあずかるという考え方の人がいるなんて」と疑心暗鬼におちいる新米FMに先輩FMがこう諭(さと)す。

「少し株をかじると、自分達の周りに転がっている資料が金に見えてくる連中もいるさ。後はモラルに頼るしかないがな」


インサイダーに走る社員のことを語る先輩ファンドマネージャー(右)
インサイダーに走る社員のことを語る先輩ファンドマネージャー(右)

村上ファンドの件にしても、日経社員の件にしても、そしてPCデポの件にしても、要はこの科白(せりふ)に集約されるのではないだろうか。日経社員の場合には「ゲーム感覚で」とへらへらしながらその動機を話していたとも聞く。インサイダー取引がどれだけ正しくないことで、市場の公正さ、信頼性を欠く行為であることが、理解していない、あるいは分かっていても軽視している。その結果、インサイダー取引をしてしまったということになるのだろう。

あるいは心の中の天秤(てんびん)が、「インサイダー取引がいけないこと」よりも「お金を儲けること」の方が重要であるというように判断するといった、バランスを崩した状態になってしまった結果、起こされたものなのかもしれない。上記で少々触れたが、「いかにもこれはインサイダー取引だろう」という値動きが相次ぎ、取り締まりの動きがほとんど見られなければ「ああ、ならばほとんどばれないだろうし、やったもの勝ちだろう」と判断し、天秤のバランスを崩してしまう人が出てきてもおかしくない。

モラルの崩壊は、社会の仕組みそのものを打ち砕いてしまいかねない。そのようなことは絶対にあってはならないし、そのためにも一人一人が自分の心に問いかけ、誘惑に負けないよういましめなければならないと思うのだが。

(C)Shueisha 2006

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