経済産業省「電子商取引等に関する準則」を読み解く:(2)他人のホームページにリンクを張る場合の法律上の問題点

2006年02月05日 18:30

先に【経済産業省、「電子商取引等に関する準則」でインターネットオークションの規制強化】で報じた通り、【経済産業省】は2月1日、「電子商取引等に関する準則」の改定版を公開した。その中で、特にインターネットオークションに関する規制強化に改正の重点が置かれていたわけだが、それ以外にも昨今のインターネット上の状況の変化や既存ルールの不備に対応するための新規追加項目が山ほど盛り込まれている。公的機関によって定義・明文化された内容なので、ピックアップすべき要件はまとめておく(自分自身の覚え書きもかねて)べきと判断。今回はその後編にあたる。

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なお当方(不破)は法務畑を歩いてきたものでなければ有資格者でもない。法的根拠はないので、あくまでも最終判断は自己責任で。

「電子商取引等に関する準則」の改定・公表について(PDF)」の中で気になるポイントの2つ目は「他人のホームページにリンクを張る場合の法律上の問題点」。俗に言うハイパーリンクの問題。インターネットという根幹システムそのものともいえるこの仕組みを否定すること自体ナンセンスなのだが、リンクの仕方によっては「これは問題ではないだろうか」という場合もありうる。その曖昧さにガイドラインを提起したことになるだろう。

準則では例として

1.わいせつな画像等をアップしているアダルトサイト運営者が、当該サイトのメンバーであるなどとして、女性の主催する店舗や個人等のホームページのフロントページに、無断でリンクを張る場合
2.反社会的団体が、自己の団体の関連企業であるなどとして、善良な企業のホームページに無断でリンクを張る場合
3.自己のホームページを有名な大手企業の関連会社のページであるとの誤解を与えて利益を得ようと考えて、大手企業のホームページへ(「関連企業情報はこちら」等といった誤解を誘うような方法で)無断でリンクを張る場合
4.企業のホームページのロゴマークに、インラインリンクの態様でイメージリンクを張って、自らのホームページが当該企業と関連する企業であるかのように、その商品又は役務について使用する場合


の4点を挙げてはいるが……正直例が極端過ぎ、いずれもパッと見で判断しても「それは威力業務妨害に該当しかねないだろう」という感じがする。特異な例を挙げて分かりやすくしようとしているのかもしれないが。

さて経済産業省では(上記の例はともかく)「無断で、他人のホームページにリンクを張る場合、リンクを張った者は法的責任を負うことがあるか」という問いに対し、次のような見解を提示している。

インターネット上において、会員等に限定することなく、無償で公開した情報を第三者が利用することは、著作権等の権利の侵害にならない限り、原則、自由であるが、リンク先の情報を

ⅰ)不正に自らの利益を図る目的により利用した場合、又は
ⅱ)リンク先に損害を加える目的により利用した場合

など特段の事情のある場合に、不法行為責任が問われる可能性がある。


そして「特段の事情」について詳しく説明を加えている。例えばリンクを張る際に、リンク先とリンク元の関係等が誤認され、リンク先のホームページ開設者の名誉が毀損されたり、信用が毀損されたりする等、何らかの損害が発生した場合、(刑法上の信用毀損罪、名誉毀損罪が成立する可能性もあるほか)民法上の不法行為責任が生じる可能性があるとしている。具体的には先の4つの例すべてが当てはまるわけだ。

例えば3.なら、世界を滅ぼそうともくろむ組織のホームページで「我が組織の関連団体情報はこちら」として首相官邸ホームページへのリンクを張り、第三国から「日本は悪の組織と手を結んだのか」と批難された場合、首相官邸(政府)はこの悪の組織に対して名誉毀損や信用毀損罪で訴えることが可能になる(※例がハチャメチャなのは分かりやすくするため&具体名で例を出すとそれこそ名誉毀損になりかねないため。ご了承いただきたい)。


次に不正競争防止法に定める商品などの表示についてリンクを張ると不正競争行為が生じるかどうか。簡単にまとめると「こういう商品が売っていたよ」としてリンクを張った場合、「そのリンクはあなたとその商品元が何らかの関係があると読み手に誤解を与えてしまうではないか」として問題が生じるのかどうかということなど。

これについてはリンク先がトップページだった場合やそれ以外だった場合(俗に言うディープリンク)は、読み手が具体的にクリックするなどのアクションを起こさないとリンク先の情報が見えないから、「不正競争行為に該当する可能性は極めて低いと考えられる」としている。

一方インラインリンク(リンクを張ったページを読み込んだときに自動的にリンク先の情報をも取得されてしまうようなリンクの張り方。HTMLタグ的にはIFRAMEを使ったり、あるいはSSIやPHS、Flashなどを用いる)の場合は、読者に対してリンク先とリンク元を誤解させるような表示をした場合、あるいは自分のところの所有物のような使い方をした場合には不正競争行為に当たる可能性があるとしている。これは例えば引用元を明記せずに何社もの新聞社の記事をIFRAMEなどで取得して一覧に表示し、自分のサイトの独自コンテンツであるかのような表記をした場合は問題ですよ、ということ。


商標法への検討についてはきわめて簡単で「通常リンクやディープリンクは原則問題なし」。ただしリンク先への指示の際に、リンクボタンをつけた時にリンク先の商標を勝手に使うと使い方次第では商標権侵害の可能性があるから注意するように、としている。

例えば、「●×工業はこちらからアクセスして」とリンクを張った際に、そのリンクボタンに●×工業のロゴマークを使った場合、そのロゴが著名人がデザインしたもので無闇勝手に使われては困ると●×工業が考えていた場合などは商標権侵害として怒られる可能性があるということ(大抵の場合はテキストリンクなり、用意されているバナーを使うから問題はないのだが……)。


最後に、逃げ的口上(?)として

なお、リンクの法的な意義については、必ずしも明確な理論が確立しているわけではなく、無断リンクを巡って、様々な紛争が生じている現状を考慮すると、「無断リンク厳禁」と明示されているウェブページにリンクを張る場合には、十分な注意が必要である。


という一文が加えられている。要は「無断リンク厳禁」としているページはリンクを張らない方が無難ですよ、というわけだ。とはいえ、不特定多数の人が閲覧できる状況に置かれている情報であり、かつインラインリンクなどをも用いていない場合は、リンクを張るなということ自体インターネットそのものを否定していることに他ならない。道のど真ん中に裸になって寝転がり、その上で「俺を見るな」と言っているようなものである(苦笑)。……あるいは経済産業省はそういう場合、「あの人は何を考えている分からないから、近寄らない方がいいよ」と語ろうとしているのだろうか。


以上、先の記事とあわせて取り急ぎ当方(不破)が気になる点についてピックアップして解釈してみたわけだが、今準則にはインターネット絡みで気になる要件に関する定義や解釈が多数掲載されている。中にはこの2件以外にも、「インターネット・オークションと特定商取引法」や「ソフトウェアの使用許諾が及ぶ人的範囲」など、興味深い、注目すべき要件が多数記載されている。

何より重要なのは今件が単なる雑多記事やあるいは論文ではなく、経済産業省という官公庁から正式に発せられた準則(法律に準ずる規則、該当する法律~今件なら電子商取引法~に関連するさまざまな問題について、民法をはじめとする関係法律がどのように適用されるのか、その解釈を示すもの)であること。今後法的な解釈が必要となる場合にはこの準則を元に判断が下されるだろうし、逆に今準則がガイドラインとなるわけだ。

少なくともこの準則に従って行動していれば、何かあった場合にも理由付け、裏づけが用意できることになる(もちろん不当行為や反社会的・倫理に反することを助長するものではない)。

今件のリンクに関する定義や、先の記事での引用なども含めたネット上の情報の取り扱いに関する話は、今後さまざまな点で論議され、適用されるに違いないと当方(不破)は考えている。


……かつて大手新聞社サイトや文化庁サイトなどでリンクについて問題が生じたけど、今件でひとまず定義づけ・説明がつけられるの、かな、と個人的には考えているがいかがだろうか。もう少し記憶力があって、人並みに時間と財力があれば、今から法律を勉強しなおしてもいいんだけどな、とつくづく思う。


■関連記事:
【経済産業省「電子商取引等に関する準則」を読み解く:(1)インターネットサイト上の情報の利用】

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