ホリエモンもムイチモンに? ライブドア株主、個人でも簡単提訴との記事。だが……
2006年01月28日 17:30
【ライブドア(4753)】の証券取引法違反容疑事件とそれにからむ株価暴落で、損失をこうむった株主らによる個人単位での損害賠償請求訴訟の話が【NIKKAN Spoarts】に掲載されていた。曰く、株価暴落の損失分を損害賠償請求することは可能で、手続は簡単とのこと。
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記事によれば、対象はライブドア本体だけでなく経営陣全体、監査役ら、監査法人そして堀江氏個人の自家用ジェット機もとのこと。弁護士の話として、「購入額と暴落後の差額を損失額としてその分を請求する内容」「違法行為をした時期より後に同社株を購入したことが条件」などなど。株式取引・投資は「自己責任」が大前提だが、記事内の弁護士の弁として「粉飾などの違法容疑が浮上した今、違法行為によって損害が出たとも言え、自己責任という前提がなくなる」と指摘している。
またくだんの弁護士は「非常にシンプルな訴訟で、やろうと思えば明日にでも訴状を出せるほど。堀江容疑者の自家用ジェット機や保有しているライブドア株も請求の対象になり得る。これだけの大事件なのだから(経営陣らは)私財を投げ打って賠償すべき」とコメント。実際に相談窓口を設置する動きが進んでいることや、被害者の会が結成されていることを紹介している。
一見すると「なるほど」と納得してしまう内容だが、この元記事には大きな要件が抜けていることを忘れてはならない。それは「比例原則」という言葉に代表されるもので、「手間隙かけてなしえたものがその手間をかけるだけの成果が上がらない場合、その行為はなすべきではない」というもの。例えば落とした100円玉を拾うためにどぶ川に知人と一緒になって半日かけて泥だらけになって探し、服をすべてクリーニングに出さねばならなくなりさらに風邪を引いてしまったというような場合。これは「比例原則」に反することになる。法律や行政行為でよく判断基準にされる法則である。
「訴状を出せるのは簡単」と弁護士は語っているが、素人に出せるはずもなく、あくまでも「(弁護士ならば)簡単」というだけの話。弁護士に依頼してそれなりの対価を支払い、何年もかけて仮にようやく勝訴の結果を得られたとしても、損害をそのまま対価として得られるとは思えない。もちろん例えば何億円といった大規模な損失を被ったならば訴訟の価値もあるだろうが、そういう人は、訴訟の可能性をアドバイスしてくれる顧問弁護士なりがいるような立場だろうことは想像に難くない。
と、なれば今参照記事は、話題の事件を面白おかしく語りながら、弁護士らによる「受けつけているからどんどん訴訟してね。手続が分からない? はいはいお任せ下さい。お安くしておきますよ」という意味を含む、中小の個人株主に対する半ば宣伝活動のような香りがしてならないのだ。粉飾決算などによって株主が会社などに株式取引の損失を請求しえることは法的にはとうの昔に分かっている事象なのに、わざわざ「1月26日あきらかになった」とするあたり(取材をしたのがこの日だからでもあろうが)も記事の話題性を高めるだけの口上に思えてくる。
もちろん粉飾決算をして株主をたぶかった行為は糾弾されるべきだし、その粉飾によって株価が暴落した株主には心中を察するものがある。指摘にある通り、粉飾が事実ならその粉飾に携わった経営陣は私財を投げ打ってでも賠償する責はあるはず。また、人間は損得勘定だけではなく感情で物事を判断することもあるのだから、たとえ結果的に損をしたとしても記事のオススメ通り訴訟をするというのもアリだろう。
とはいえ、ここぞとばかりに気軽に訴訟を薦め、かかる費用や手間については一切言及しないというのも如何なものだろうか。もちろん件の弁護士はインタビューの際にはそのあたりもコメントしたものの、元記事の記者が「興ざめするからカットしてしまえ」とばかりに文面に盛り込まなかっただけかもしれないが……。
繰り返しになるが株式投資は原則として自己責任。原則の前提を覆すような状況があったとしても、それはその責任の範囲内でカバーされるべきである。そもそもこのような事態になるリスクを考慮した上で株主になったのだから仕方が無いではないか、と問われ、完全に否定できる株主はどれくらいいるのだろうか。
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