インフルエンザとタミフルとスペイン風邪と
2005年11月28日 04:40
【先の記事で】、タミフルという「インフルエンザの症状がさらにひどくなるのを抑え、症状が出ている期間を短縮する」効用がある薬を取り上げた。この薬についてはインフルエンザの流行に備え、国レベルで備蓄を促進している。だが国と地方公共団体との間に方針の齟齬(そご)が生じていたり、現状では備蓄量の目標達成は2年後になるなど([このページ(Sankei Webなど)は掲載が終了しています])、日本国内に限っても騒動はしばらく続きそうだ。
スポンサードリンク
また、海外でも【台湾がタミフルの独自生産をはじめたり(NIKKEI NeT)】、[このリンク先のページ(Cnn.co.jpなど)は掲載が終了しています]など、世界各地でタミフルへの注目は高まりつつある。あの「鳥インフルエンザ」にも効果があるとされているだけに、特に東南アジアにおいて期待されている。
薬の不必要な服用は意味が無く、かえって副作用や悪影響を及ぼす抗生をつけてしまうことは既知の通り。無駄・過剰にまるで栄養剤でも飲むかのようにタミフルを服用するのは百害(薬害)あって一利なし。
だが、「その時」に備え万全な体制を整えておくのはけっして悪いことではない。インフルエンザは大意的には風邪と同じようなものだが、通常の「単なる体調不良をあらわす風邪」と違い、インフルエンザウィルスによるインフルエンザは、ナめてかかると痛い目にあう。
その「痛い目」をもっともよく象徴している例がスペイン風邪だ。スペイン風邪は「風邪」という名前がついているものの、インフルエンザに他ならない。1918年から数年の間、全世界的に猛威をふるったもので、感染者は全世界人口の半分以上におよぶ6億人、死亡者は5000万人前後といわれている。日本でも当時5500万人の人口に対して約40万人が死亡した。
中世ヨーロッパで流行した黒死病(ペスト)の死亡率3割と比べれば少ないが、ペストがヨーロッパとその周辺のみに限定されたのに対し、スペイン風邪はほぼ全世界に感染した分、脅威度は高い。
インフルエンザは単なる風邪と違い、栄養を採って安静にしていても治る可能性は高くない。最終的に体の自然治癒力が勝るとしても長期に渡る療養が必要になるだろうし、適切な治療がなければウィルスに勝てないかもしれない。そして悪質なタイプのインフルエンザがパンデミック(世界的な大流行)とでもなれば、治療薬へのニーズはパニック的に高まる。何しろ、ごく普通の生活をしていても感染する可能性は十二分にあるのだから(注意すればどうにかなるという類のものではない)。
スペイン風邪や黒死病が流行した当時と違い、現在では医学は劇的に進歩し、衛生環境も格段によくなっている。とはいえ、ウィルスは人間の生活環境以上に進化し、適応力を持っているのも事実。現在懸念されている、鳥インフルエンザの人への感染が容易になるタイプが登場した場合、あわててその対処を考え出したのでは遅すぎるのだ。
小松左京の小説を映画化した『復活の日』で、猛毒のウィルスの抗体を開発しようとする米国の研究機関が大統領に「票にも金にも結びつかないからといって研究機関への予算を削減して、”もしも”の時の対処をおざなりにするから、いざ必要な時になった今となっても、ワクチンの開発が間に合わない」と問い詰めるシーンがあった。そんな「後の祭り」「公開先立たず」なことのないよう、「備えよ常に」ではないが、過敏すぎない程度に備えるべきものへは備える必要があるだろう。
(最終更新:2013/09/19)
スポンサードリンク
ツイート