サンビシ(2808)突然の民事再生手続開始。前兆はどこに?

2005年10月30日 12:17

サンビシイメージ先日お伝えした名証2部上場の【東海地方のしょう油メーカーサンビシ(2808)】の突然の破綻(【サンビシ(2808)、民事再生手続開始申立ての手続開始】)。市場に影響を及ぼすのは来週月曜以降となるが、【■財務アナリストの雑感■】からのトラックバックを元に指摘を確認してみたところ、それなりの「前兆」がちらほらと出ていたことが明らかになった。

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サンビシは1896年創業、1920年に法人改組した老舗のしょう油・調味料メーカーで、1962年に名証2部に上場。しょう油会社としてそれなりに知られた会社だった。

今件の破綻は次のような図式になる。まず、サンビシ自身は子会社は無く、単独決算しか発表されていない(【参照:YahooFinanceより】)。サンビシと、破綻の引き金を引いたサンビシ商事の関係は、

1)サンビシ商事はサンビシの筆頭株主(9.47%)
2)サンビシとサンビシ商事は同一人物(及部久嗣・およべひさし)を社長に持つ兄弟会社

にある。つまり密接な関係に両社がありながら、サンビシ商事の財務関係は公開義務は無いので一般株主はあずかり知ることができない。

そして、このサンビシ商事が設立した子会社によるデリバティブ取引で多額の損失が発生。10月28日に破産手続き開始の申し立てを行う。そのためサンビシ商事は子会社に貸し付けていた資金57億円が回収不能になり、破産手続きの申し立てを実行。結果としてサンビシそのものもサンビシ商事の債権46.27億円がほぼ回収不能となり、債務超過になる見通しになったため、民事再生手続きによる事業再生を選択した。順立てると、

サンビシ関連資金の流れ
サンビシ関連資金の流れ

①サンビシ商事の子会社がデリバティブ取引の失敗で破綻
②子会社の破綻でサンビシ商事が破綻
③サンビシ商事の破綻でサンビシ(2808)が破綻

と連鎖倒産が1日のうちに生じたことになる。まるでドミノ倒しか落ちモノパズルゲームの連鎖技のようだ。

連結子会社でない以上、サンビシ商事、ましてやサンビシ商事の子会社の決算動向は一般株主には知るよしもないし、知るすべもない。だが「結果論」かもしれないが、既存の公開情報に注意深く目をやると、その前兆がうかがえる。【EDINET】でサンビシの直近の有価証券報告書をチェックしてみると、

サンビシ商事はサンビシの製品をはじめとする食料品などの卸売販売を業とする。一方、サンビシ自身の直近(自平成16年4月1日至平成17年3月31日)ではサンビシ商事に対し64.5億円資金貸付け、同額の返済。期末貸付残高は7億円。サンビシ商事へのサンビシの販売取引額は17.3億円、売掛金は8.2億円(全売上44.6億の4割近くの取引額)。


とデータから確認できる。昨年度もほぼ同様の資金の流れが生じている。メインの取引先であり、社長が兼任し、大株主であることを差し引いても、資本金4億円足らずの上場会社が、なぜ年間売り上げ以上の多額の資金を貸し付ける必要があったのか。そしてさらに、なぜ毎年「借り入れと返済」を繰り返しているのか。これでは「不当な取引ではないか」「粉飾してるのではないか」と疑われても仕方ない。

サンビシ自身は本業では利益が出ているため、今回の破綻後も事業は継続する一方、資産処分で債権者への弁済を行う予定。一部報道によれば及部社長はデリバティブ取引を行った理由について「利益を得るため」としている。また、サンビシの取締役会でサンビシ商事への貸付限度枠を累計15億円と定めていたにも関わらず「失敗を隠すためこれを無視して独断で」貸付を増やし、今回の破綻をまねいたようだ。

サンビシはすでに【名証からも発表されている】が、11月28日まで整理ポストに割り当てられ、11月29日には上場廃止となる。また、制度信用銘柄の選定からも除外されている。

事実上社長の判断によるデリバティブ取引の失敗で連鎖倒産など、上場企業としてはよもやありえない事態となった今回のサンビシの破綻。あえて今件から教訓を得るとすれば、

・有利子負債が異様に大きくその理由が定かでない
・連結対象で無く財務状態が明らかでない兄弟会社などがある

このような場合には

・資金のやり取りに注目しておかしな流れがあれば公開情報を元にチェックを行う
・もし株主の立場なら「情報の公開と(悪しき状況と判断すれば)事態の改善を求める」など株主の権利を主張する

ことなどを考えるべきかもしれない。

それにしても「デリバティブの取引失敗で上場会社が連鎖倒産」というのは……バブル崩壊時でもあるまいし、と思う一方、同社長は上場後にある程度キャッシュを手に入れて、つい欲が出てしまいデリバティブ取引に手を染めてしまったのだろうかとも考えたりする。民事再生手続き申請後同社長は「民事、刑事で責任を問われることもあり得るが覚悟している」と語ったと報じられているが、覚悟するくらいなら初めからやらなければ良いのに、「足るを知る」という信条さえあればこんなことはしなかったはずなのに、と思うのはやはり他人事だからだろうか。

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